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2018/05/17

ルビー・スパークス

監督:ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス
出演:ポール・ダノ/ゾーイ・カザン/クリス・メッシーナ/トニ・トラックス/スティーヴ・クーガン/アーシフ・マンドヴィ/デボラ・アン・ウォール/アリア・ショウカット/エリオット・グールド/アネット・ベニング/アントニオ・バンデラス/オスカー(asスコッティ)

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸5/技3

【夢で見た彼女が現実に】
 デビュー作が大ヒットを記録し、天才と騒がれた若き作家カルヴィン。だが以後はまったくタイプライターを打てず、恋人とも別れ、犬のスコッティと寂しい日々を過ごしている。セラピストの勧めでようやく彼が書き始めたのは、ある夜の夢で見たひとりの女性についての物語。ところがその女性=ルビー・スパークスが、カルヴィンが創作した通りの姿と性格と背景をともなって本当に現れ、カルヴィンとの恋人生活を始めるのだった。
(2012年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【何度も傷つかないと、奇跡も現実も守れない、それが人】
 監督は『リトル・ミス・サンシャイン』のコンビで、なるほどと思わせる空気感。脚本はルビーを演じたゾーイ・カザン。『ハッピーサンキューモアプリーズ』からさらに女優としてステップアップしたことを実感でき、また、こういうものを書けることにも驚かされた。

 ああ、でも、ちゃんと感想を書く自信がないな。肌合いというか、観終えて心に残るトロっとしたものの味は『終わりで始まりの4日間』『エターナル・サンシャイン』に近いのだけれど。

 ともかくも、男ってのは愚かなのだ。時おりルビー・スパークスのような破滅型に、こりゃあマズいと思っていながら何もかも委ねたくなってしまうくらいに。
 ルビーの現実世界への登場時の衣装が、かなりヤバイ

 浮かれるカルヴィン。奇跡的な幸福には代償がツキモノ、っていうのがこの世の真理であるはずだが、そういう不安を微塵も描かないのが逆にリアル。こうなるともう、クリエイターとしての創作とその発展などではなく、あくまで男としての欲望・願望・妄想の無責任な具現化、あるいは後先考えず(というより先々に待ち受けている不幸を潜在意識では承知したうえで)流れに身をまかせるマゾヒスティックな恋愛模様だ。

 まぁさすがに、すべてを意のままに操ることを禁忌とする自制心がカルヴィンの中にはある。男って、愚かなりにそういうピュアな生き物でもあるのだ。

 が、ふたりの関係をカルヴィンは上手くコントロールできない。理想はあるし自制しようともするんだれれど、イメージの押しつけへと転化していく。
 兄夫婦と母夫婦、ふたつのカップルが対比として置かれる。彼らに対しカルヴィンは「なんやかんや文句をいいながら、なんだかんだやっていく」という処世術を持たないし「バカを貫徹することが愛」と開き直ることもできない。

 やがて曖昧になる境界線。
 魔法と真実の差はどこにあるのか? 恋と束縛の違いは? 理想と現実とのギャップはなぜ生まれ、それをどう埋めるべきなのか?
 さまざまな“想い”と“実際”の違いの中で、男としての自然な苦悩を募らせていくカルヴィン。加えて彼には、自分の創作物とどう接するかという作家としての苦悩もあるからやっかいだ。

 はじめは疾走するかのごとく、終盤では哀しみを帯びて響く、執筆のテーマ(サントラ)の使いかたが印象的だ。

 でも本来、境界線なんて、彼らのような特殊なカップルでなくとも曖昧なものなのだろう。ひとつひとつの出会いも、恋も、奇跡であると同時に現実でもあるのだ。
 そのことを理解せず、ひとたび“想い”と“実際”との違いに悩み、囚われてしまうと、自分はどうすればいいのか、どこまでが許されるのか、行為の境界線までも見えなくなる。

 迷走と暴走の挙句、すべてをゼロへと戻し、カルヴィンはタイプライターからPCに乗り換える。
 タイプライターは、ひたすら情熱的に作り上げる行為、後戻りできないしミスは許されないし、あるいはミスはミスのまま突き進む、そんな生きざまの象徴だろう。いっぽうPCは、冷静に、思案し、整合性を保ちながら、さかのぼって修復することもある、そんな、新たなカルヴィン像。

 それはクリエイターとして一皮むけたことを示す描写であると同時に、現実世界で生きる決意のあらわれでもある。
 ひとつひとつの出会いも、恋も、奇跡であると同時に現実。そうした“身近な奇跡でできあがった現実”にこそ本当の幸せがある。そこで生きていくのは、奇跡と現実を自分の都合のいいようにゴチャ混ぜにして浮かれることより、よっぽどタイヘンだ。

 カルヴィンの兄ハリーは「男として頼む。この奇跡をムダにするな」という。ここで「奇跡」を「現実」に置き換えてみれば、よくわかる。現実もまたムダにしてはならないのだ。奇跡と現実の集積体である恋は、コントロールしにくく、壊れやすいがゆえに、ムダにしないでおこう、守り抜こうと、努力する必要があるのだ。

 元カノと上手くいかず、ルビーとも失敗してしまったカルヴィンに、みたびチャンスは訪れる。また失敗してしまうかも知れないが、“身近な奇跡でできあがった現実”の大切さを知った彼なら、それなりの覚悟をもってチャレンジするだろう。
 何度も傷つきながら、やっと自分の恋心を制御する術を覚えていく。人は愚かであり、だからこそ愛おしい

●主なスタッフ
撮影/マシュー・リバティーク『カウボーイ&エイリアン』
編集/パメラ・マーティン『ザ・ファイター』
美術/ジュディ・ベッカー『世界にひとつのプレイブック』
衣装/ナンシー・スタイナー『宇宙人ポール』
音楽/ニック・ウラタ『フィリップ、きみを愛してる!』
音響/アーロン・グラスコックス『ザ・タウン』
音響/バイロン・ウィルソン『コンテイジョン』

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