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2018/07/13

荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE

監督:飯塚健
出演:林遣都/桐谷美玲/小栗旬/山田孝之/城田優/片瀬那奈/安倍なつみ/平沼紀久/有坂来瞳/徳永えり/末岡拓人/益子雷翔/駿河太郎/手塚とおる/小林三起/大橋律/井上和香/浅野和之/高嶋政宏/上川隆也

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【わたしに恋をさせてくれないか】
 市ノ宮グループを率いる父・積から、荒川の河川敷で暮らす不法占拠者らを七夕までに追い払うよう命じられた行(こう)は、川で溺れかけたところをニノに助けられる。“他人に借りを作ってはならない”を家訓とする行にニノが求めたのは「わたしに恋をさせてくれないか」。七夕には金星へ還らなければならないと語るニノや河童の村長など、不思議な住民たちの中で行の日々が始まる。
(2011年 日本)

【真正面から、斜め方向から】
 ひとまず河川敷の住民を、誰の周りにもいる人々を記号化したものだと捉える。で、その先に踏み込むことと、踏み込まずに受け入れること、ともに大切なんだと本作は謳っているようだ。

 自分自身を、孤独であると同時にスペシャルな存在でもあると信じる心。それは河川敷の住民のみならず、リク(行)も積も持ち合わせている想いであり、人を動かす原動力にもなる。
 ただし、自分だけでなく周囲や相手もまた(自分にとっても世界にとっても)スペシャルだと信じることが重要だ。
 たぶん誰もが、泳ぎが上手い、体温が低い、涙を流せない、恋を知らないといった言葉で表せると同時に、1000ページの資料ですらまとめ切れない存在でもある。ある人を形成している“いろいろ”の裏側まで理解し、または理解できないけれど受け止めようと決意するところから、自分と世界とのつながりは始まる。

 そのうえで、逆上がり教室を見守ることにファーストプライオリティを置く生活が送れるのなら、なんと素敵なことだろうか。

 あの、こくごノートが秀逸だ。自分には見えないところにあった懸命さに震える。“その人”の“存在”がニノさんという実体あるひとりの個として収斂していく瞬間の輝きに涙する。

 実は村長のデウス的・超越者的キャラクターについては、リクがこの世界で果たす役割というか、本作をリクの自立の物語だと考えるとやりすぎだなとも思ったのだが、高屋敷の反応から「あらかたのことを知っていて、あらかたの未来がわかるんだけれど、できることは意外と限られていて、あの性格だから憎まれず怖れられもせず、リスペクトされながらサラっと流されることもある人」と村長を捉えると、どうだろう。
 決して宇宙の中心ではなく、この人もまた世界を面白いものにしてくれる1つのピース。そう思うと、人間社会ってホントに奥深くて楽しいと感じられる。

 そんな「大切なものが何か気づかせてくれた」系のドラマ。ありふれたテーマだけれど、ファンタジーとコメディと不条理とおふざけの中に上手く真理を盛り込んで、楽しく見せる。
 TVシリーズの中身を、スピード感とわかりやすさ重視で本筋中心に整理したような形。めくるめくカットワークが生み出す華やかなテンポに、しっとりと流れる空気も混ぜ込まれていて居心地がいい。舞台的な人物配置はユニークで、サントラの乗せかたは手慣れた感じ。

 膨大な量のセリフを、細かな抑揚やコーフンとともに吐き出す林遣都がいい。硬質な上川隆也との親子関係にも違和感がなく、ふたりともストンと物語世界の中に収まっている。
 小栗旬は、あのいでたちなのに背中のラインや腕の角度にカッコよさを漂わせているのが素晴らしく、山田孝之、城田優、片瀬那奈が発する狂気はチャーミングで、安倍なつみと徳永えりは今日も可愛い。

 そして、桐谷美玲の美貌。なんていうか、「ニノさんとしての桐谷さん」に出会えたことが幸せ。急に飛びかかりおんぶなんて、6000万日本男児のツボでしょ。そばにいたらキスしたくなる顔日本一(いま思いついた)からキスしてもらえる倒錯に萌える。

 TVシリーズで描かれた各キャラクターのエピソードがゴッソリ取り除かれたせいで、リクの心の動きが十分に描き出せなかったことは、1本の映画としてみた場合に痛恨であり、残念。不必要にアンダーな画面が多かったことも気になる。

 が、人と人との付きあいかたや人間社会の面白さを、お話としては真正面から、道具立てや見せかたとしては斜め方向から、描いてみせた楽しい作品であることは間違いない。

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