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2018/07/19

南極料理人

監督:沖田修一
出演:堺雅人/生瀬勝久/きたろう/高良健吾/豊原功補/古舘寛治/小浜正寛/黒田大輔/西田尚美/小野花梨/小出早織/宇梶剛士/嶋田久作

30点満点中15点=監2/話3/出4/芸3/技3

【南極で料理を作る仕事】
 南極大陸上の標高3810m、昭和基地からも遥かに離れ吹雪に閉ざされた「ドームふじ基地」。海上保安庁から派遣された西村淳(妻子あり)の仕事は、気象学者のタイチョーや雪氷学者の本さん、そのサポートの兄やん、医療担当のドクター、車両担当の主任、大気学者の平さん、通信担当の盆といった観測隊員たちの食事を作ることだった。男ばかりの基地。問題は、食材のバリエーション不足や低圧環境での調理の難しさばかりではなかった。
(2009年 日本)

【致命的なマズさがあって】
 いいところをあげるなら“おかしみ”だろう。オッサンたちの合宿生活から滲み出る、些細なジタバタ、くだらないことへのこだわり、言い争いながらも「このメンバーでやっていくほかない状況」に対して示される日本人らしい曖昧な優しさ……。そういう空気は楽しい

 この空気はキャストに負う部分が大きい。堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾あたりは、本来ならもっと派手な狂気のようなものを秘めている役者であるはずだが、そこをいい塩梅でコントロールして、役柄に説得力と安心感とを与えている。豊原功補の無責任なドクターも、何気に上手い。

 網走で撮影されたらしいが、そこから生じる制約や限界を乗り越えて南極っぽさを感じさせてくれる。基地内の猥雑さを再現した美術も上々だ。
 あと、兄やんが見つける彼女のエピソードも好み。西村が胃もたれしそうな唐揚げを口にして泣くのも、彼の娘のキャラクター設定も情緒がある。

 が、それ以外はムムム。もうファーストカットから「ああ……」と落胆させられるのって、何なんだろう。
 各カットが、理想より1~2割長い。好意的に解釈すれば「退屈な基地での生活を退屈な間(ま)で表現しようとしたのだろう」となるのだが、それは描写や構成の妙で作り上げるべきで、なんとも野暮ったい。

 確かに、その間(ま)が冒頭で述べた“おかしみ”へとつながっていることは否定できず、ならば歓迎すべきなんだろうけれど、どうもそうじゃなくって、単に「編集の悪さ」だと感じられる。
 だってたとえば中盤の、シャワー、バター、雪氷掘削、国際電話が重なるスラップスティック場面、同じ時間軸で起こっているようには伝わってこないんだもの。カット~シーン~シークエンスという積み重ねがちゃんとできないのって、映画として致命的でしょ。
 全体にエピソードやシーンがブツ切れ、流れが殺されている印象。

 作品における“食事の描写”の重要度が思ったより高くはなくて、少なくとも『南極料理人』という題名に釣り合っていないのも問題。
 いや、あからさまに「退屈な毎日の中で食事だけが楽しみ」というコテコテの方向で作ることが正解だとは思わない。
 けれど、このタイトルを採用し、料理をまったく美味しそうに見せず(といいつつ翌日エビフライを食ってしまったのだが)、西村が「日本人の食べ慣れたメニューを淡々と供する」というパターンから大きく外れず、照り焼きにビシャビシャと醤油をかけてしまう本さんとそれを苦笑交じりに見る西村の表情、「結局、日本人ってラーメンなんだよね」と思わせる終盤の展開……などを考えれば、狙いはやっぱり「フツーの食事でも隊員たちにとっては大きな楽しみ」「当たり前のように食事が出てくることのありがたさ」といったところだったはず。
 けどそれが、十分に表へと出てきていない。実際の隊員たちからクレームがつかないか心配になるほどの“何にもしていない感”とも相まって、南極でのダラっとした日々のグラフィティ、にとどまっている。

 コメディとリアリティのバランスがどっちつかずであることも含め、どうも“目指すべき方向性”が定まっていないまま、まとめられているイメージが残る。
 けっこう好きだった『イロドリヒムラ』で、唯一つまんなかったのが、この監督の担当回。どうも自分には合わない人のようで。

●主なスタッフ
美術/安宅紀史『恋愛小説』
フード/飯島奈美『めがね』
衣装/小林身和子『ゴールデンスランバー』
音楽/阿部義晴(ユニコーン)
VFX/小田一生『クライマーズ・ハイ』

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