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2018/09/30

星を追う子ども

監督:新海誠
声の出演:金元寿子/入野自由/井上和彦/竹内順子/折笠富美子/島本須美/大木民夫/日高里菜/伊藤かな恵/浜田賢二/勝倉けい子/前田剛/水野理紗/稲村優奈

30点満点中16点=監3/話2/出3/芸4/技4

【生きる者と死者の魂が交わる場所へ】
 星に手が届きそうな山間の町。看護師の母と暮らす中学生のアスナは優等生だが、自ら作った秘密の場所へと峠を駆け上る一面も持っていた。忘れ難いのは、父の形見の青い鉱石をラジオに組み込んだら聴こえてきた、不思議なメロディ。ある日アスナは、鉄橋で化け物に襲われたところをシュンと名乗る少年に救われる。それは、はるか昔に失われた黄泉の国、地下に広がる“アガルタ”へと向かう旅の始まりとなるのだった。
(2011年 日本 アニメ)

【子供向けだけれど、愛おしさも】
 主要スタッフが過去作と共通していることもあり、今回も新海ワールド。特に選曲のセンスとか入れかた、パンのタイミングなどは、この監督ならではの“間”といえる。
 もちろん背景は相変わらず美麗かつ詳細。ただ美しいだけじゃなくて、フレームイン/フレームアウトするカットを多用し、あるいはカメラが人物を追いかけ、立体的なフォーカスを採用し、明かりの表現も巧みだし、風音や鳥の鳴き声を細かに拾い上げている。そうして「アスナの周囲に広がる世界と空間」を上手に創り出している感じだ。

 画面のサイズも多彩で、対決シーンなど人の動きは勢いや雰囲気で誤魔化すのではなくキッチリと描き込んでいて、表現の誠実さも見て取れる。
 なんとなく昭和っぽいキャラクターデザインは物語世界にけっこうマッチしていて、この映画のターゲットとなるであろう年代とその親世代の双方に受け入れられそうなラインだ。

 で、内容はといえば真っ向からのジュブナイル。それっぽいネーミングを頻出させてひとつの世界観を熟成させている点が面白く、けれど、まぁ中学生向けのお話と展開。けっこうセリフに頼っている部分もあるし。
 ただ、子供だましだとひとことで片づけられるようなものではない。

 芯にあるのは「われわれ人間は、未熟さゆえ生に執着する」という考えかたと、けれどその未熟さを嗤ったり蔑んだりするのではなく、未熟から生じる“あがき、もがき”を愛おしむような立ち位置。
 本作のイメージのベースになっているであろうグノーシス主義(この宇宙とそれを作り出した神とは「悪」であり、どこかに別の「善の神と宇宙」が存在する、という価値観・渇望)も曼荼羅もユグドラシルもラピュタやもののけ姫といったジブリ作品もエヴァも『鋼の錬金術師』も、みぃんなまとめて「人は生に執着する愚かさを持っているけれど、その愚かさこそが人の美しさだよね」と肯定し応援するような雰囲気。

 そうやって捉えると、ホっとするというか、「人は愚かである。が、だからこそ愛おしい」主義の自分には嬉しいというか。

 生に執着するから、死を忌み嫌う。死から逃れようと、あるいは生を取り戻そうとして苦しむ。永遠を望む。その“あがき、もがき”の中で懸命に生きようとする。ある意味では呪い、ある意味では祝福。
 そうしたメッセージの中心に、幼い頃に「強く生きねば」と誓ったはずのアスナはピッタリとハマり、健やかだと思うのである。

●主なスタッフ
作監/西村貴世
美術/丹治匠 以上『秒速5センチメートル』
音楽/天門『ほしのこえ』

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